2026年6月号・WORKSHOP
医療機関マネジメント構造化思考レッスン 第3回 経営は「判断の連続」
西山 信之
WORKSHOP
医療機関マネジメント構造化思考レッスン
経営は「判断の連続」努力を成果に変える最後の要素

にしやま のぶゆき:認定登録 医業経営コンサルタント/西山病院管理研究所 所長/診療放射線技師/MBA。医療機関の経営支援、組織開発、人材育成を専門とし、主に自治体病院等の公的医療機関のコンサルティングおよび研修企画・運営に多数携わる。本連載は、当協会の厚生労働省受託事業「医療経営人材養成研修事業」の講義内容を基にポイントを解説するものである。
Introduction
前回は、努力が成果を生む条件として「真理との一致」という視点を整理した。しかし、真理を理解しても、努力の方向を定めても、それだけでは経営成果は生まれない。なぜなら、組織は判断しなければ何も変わらないからである。
医療機関の現場では、次のような場面が日常的に発生している。
- 新しい取り組みを始めるか
- 人員配置を変えるか
- 設備投資(高額機器導入)を実行するか
- 方針を継続するか見直すか
これらはすべて「判断」である。経営とは、施策でも会議でも数値でもない。判断の積み重ねそのものである。本稿では、経営を「判断の連続」として再定義する。
〈Case〉
新診療科設置を巡る意思決定
地方都市の300床規模の中核病院Aでは、経営赤字が継続している。病床稼働率の低下→救急受入制限→看護師離職増加と負のスパイラルに陥っている。
そのような状況の中、院長は次の提案を行った。
「消化器内科を新設したい」
提案背景は下記である。
- 地域で内視鏡需要が増加
- 競合病院が専門センターを設置
- 紹介患者の流出が懸念
幹部会の意見は分かれた。賛成意見として「新規患者獲得につながる」「病院のブランド向上」「将来的な収益源になる」などが上がった一方、慎重意見として、「医師確保の見通しが不透明」「看護師不足が深刻」「初期投資が大きい」──。
この状況は典型的な経営課題である。そして、重要なのは「正解」ではない。経営課題に対する判断が組織の未来を決めるという事実である。
〈思考フレームワーク〉
判断の連続モデル
経営はしばしば次のように語られる――「ビジョン策定」「戦略立案」「組織改革」「数値管理」。しかし、これらはすべて「判断の結果」であり、経営は次の式で整理できる。

成果は単一の決定ではなく、小さな判断の連続によって生まれる。例外なく医療機関でも、1つの判断が必ず次の判断を呼び込む。そして、その連鎖が最終結果を形成するのである。
判断にはもう1つ重要な側面がある。それは「意味」である。同じ判断でも、組織が受け取る意味は異なる。
診療科の新設に対して、「成長投資」と受け取る職員もいれば、「現場負担の増加」と受け取る職員もいる。判断は行動だけでなく、組織の意味付けを変える。
したがって経営者は、何を決めるかだけでなく、なぜ決めるかを設計する必要もある。本稿ではこれを、「意味のデザイン」として明示しておく。
〈判断の構造〉
医療機関で起きている現実
医療機関では毎日、大小様々な無数の判断が行われている。
- ◯診療科設置 ◯設備投資 ◯人事制度改定
- ◯中規模の判断 ◯採用 ◯配置転換
- ◯プロジェクト開始
- ◯会議の開催 ◯優先順位 ◯業務改善の採否
――これらは分断されているのではない。すべてが経営結果につながっている。赤字も、離職も、稼働率も「判断の履歴」である。
Lesson用の素材として、グループワーク用の問いと机上研修用の問いを示す。討議の議題は「診療科の新設」としたが、「配置転換」や「業務改善の採否」など大小様々な判断に展開可能である。
コンサルテーションや幹部研修では、組織の「判断履歴」を共有することで、経営の見え方が大きく変わる。


* コンサルテーションや幹部研修では、これらの「判断履歴」を共有する。それにより経営の見え方が変わる。

- ピーター・F・ドラッカー:マネジメント【エッセンシャル版】 基本と原則、ダイヤモンド社、2001
- ハーバート・A・サイモン:新版 経営行動―経営組織における意思決定過程の研究、ダイヤモンド社、2009
- カール・E・ワイク:センスメイキング・イン・オーガニゼーションズ、文眞堂、2001
JAHMC 2026 June | P.32–33