公益社団法人 日本医業経営コンサルタント協会

2026年6月号REPORT ルポ1

台東区立台東病院

REPORT

2040年を見据えた多様な
首都・東京における
地域医療の姿

レポートでは東京の地域医療のありようを「都心型」「近郊型」「地方型」の観点から取材した。「都心型」では、大学病院など高度医療機関が集中する都心部で区立病院を回復期・慢性期機能に特化させた狙いを、「近郊型」では、中小の民間病院が姿を消していく中で、地域医療を維持し支えるために自治体の果たすべき役割を、「地方型」では、高齢化と人口減少に直面しながら、市立病院が急性期医療の担い手として機能し続けるための戦略に主眼を置いた。

ルポ 1台東区立台東病院

都心で整備された
公設民営型の地域包括ケア拠点病院

高齢者が最後まで
暮らせる地域を目指して

東京23区の東側に位置する台東区は、江戸時代から門前町として栄え、現在も下町情緒あふれるエリアだ。面積が23区中で最も狭く、人口は約21万7,000人(2026年5月1日現在)と23区中21位だが、人口密度は上位5指に入る。近年、子育て世代の人口が増加傾向にあり、高齢化率は21.8%(2025年)と都平均値(24.2%/2025年)を下回るが、かつては23区の中でも有数に高く、台東区では早くから高齢者医療の拠点づくりに取り組んできた。

契機になったのが都立病院の再編だ。都立台東病院が2004年に廃院となった後、地元住民からの新病院設立の要望を受けて、台東区、台東区医師会、識者らによる検討会が始まった。このとき中心的役割を担ったのが、のちに東京都医師会長や日本医師会常任理事を務めた故・野中博氏だった。

白衣姿で取材に応じる山田隆司氏
公益社団法人地域医療振興協会副会長兼台東区立台東病院管理者の山田隆司氏

野中氏は、超高齢社会を見据え、継続した治療を必要とする高齢者の在宅復帰を支える病院の重要性を熱心に説き、区は関係者との話し合いを重ねた末、老健を併設した公設民営型の新病院建設計画を作り上げた。そして公募により(公社)地域医療振興協会が選定され、2009年に全国初となる公設民営型の区立病院が誕生した。

地域医療振興協会は、自治医科大学卒業生を中心に設立された公益社団法人で、2026年現在、全国で84の医療機関や介護老人保健施設などを運営・指定管理し、地域医療の確保と向上に貢献している。へき地や離島などいわゆる医療過疎地域での診療活動が主となるが、都市部の医療機関を運営することも少なくない。「都市部で人材を確保・養成した上で医療過疎地域に派遣する。このような仕組みがないと持続的に医療過疎地域の医療支援を行うことは難しい」と台東病院管理者の山田隆司氏は説明する。

一方、総合診療を軸に据えた高齢者医療サービスは同協会が得意とする分野だ。台東区の公募に手を挙げたのは人材循環型の仕組みに加え、「われわれが医療過疎地域で積み重ねてきたノウハウを東京都心で実証し、さらに質の高い高齢者医療サービスを提供していきたいという狙いもあった」(山田氏)。

台東区立台東病院の外観

台東区立台東病院の概要

所在地
東京都台東区千束3-20-5
開設者
台東区
運営事業者
公益社団法人地域医療振興協会(JADECOM)
管理者
山田 隆司
診療科
総合診療科、整形外科、耳鼻咽喉科、眼科、皮膚科、泌尿器科、リハビリテーション科
病床・機能
120床(一般40、回復期リハ40、療養40)
併設機能
台東区立老人保健施設千束150床(一般棟100、認知専門棟50)、通所リハビリ、訪問リハビリ、ショートステイ、居宅介護支援事業所
台東区立台東病院のQRコード
台東区立台東病院の施設フロアマップ。屋上:リハビリ庭園/8F・7F:老人保健施設千束(一般療養棟)/6F:老人保健施設千束(認知症専門療養棟)/5F:台東病院(療養病棟)/4F:台東病院(回復期リハビリテーション病棟)/3F:台東病院(一般病棟)、手術室/2F:地域連携相談室、リハビリテーション室、健診室、売店、喫茶スペース/1F:エントランスホール、外来(診察室)、検査室、内視鏡室、放射線室、救急処置室/地下1F:駐車場、厨房、栄養室、薬剤室

住民の理解があってこそ
本来機能を発揮できる

同協会は、台東病院において“「ずっとこの町で暮らし続けたい」を応援します。”を理念に掲げ、役割に応じた機能を整備した。外来診療は、多疾患併存者である高齢者を適切に診療できるよう総合診療科を軸に据え、急性期医療と在宅医療の架け橋となるべく地域医療連携室を充実させた。

120床ある病棟は、一般病棟のほか回復期リハビリテーション病棟、療養病棟を40床ずつ配置し、高齢者に多い肺炎、心不全、骨折などの疾患、がんの終末期、老衰による看取りなどに対応。また、介護老人保健施設「千束」を併設し、認知症高齢者のほか、ショートステイや通所リハビリ、訪問リハビリなどの介護サービスを提供し、在宅医療を支える。

まさに地域包括ケアシステムの拠点ともいえる医療・介護機能を備えたわけだが、「開院当時は、東京でも“地域包括ケア”という用語は馴染みがなく、総合診療科の必要性も誰も感じていなかった。この周辺に大学病院や総合病院が林立する環境の中、地域住民の理解も得られず、“この病院は重い病気を診てくれない、手術もしてくれない”とよく言われた」と山田氏は振り返る。

開院から18年目を迎え、ようやく地域住民に同病院の役割と機能が理解されるようになったものの、地域全体にまなざしを向けると慢性疾患を抱える高齢者の療養環境が好転しているとは思えないと山田氏は話す。

「東京都は介護を必要とする高齢者の受け皿が足りないと特別養護老人ホームをたくさん用意した。しかし、急性期病院の在院日数がさらに短縮され、医療的処置が施されたまま退院し、その後も医療的管理を必要とする高齢者が増加しており、介護施設に入所できずに行き場を失っている人は少なくない。当院のような医療と介護の両方の機能を持つ医療機関の必要性と重要性が一層高まっているが、その数は全く足りていない」(山田氏)。在宅医療に関しても在宅専門診療所は増加しているものの、かかりつけ医が最期まで看取る仕組みは十分ではない。「足りないと言っては整備してきたので、パッチワークのようなサービスが提供されていて、シームレスで継続的なサービスが疎かになっている印象がある」と指摘する。

かかりつけ医が患者の
最期を看取れるよう注力

病院の理念に基づいた地域包括ケアを実践する上で、かかりつけ医(診療所)との連携は欠かせず、同病院ではかかりつけ医による在宅医療の後方支援にも注力している。

「野中先生は、地域の中で家族まるごと代々診てきた患者さんの最期を看取れるような、かかりつけ医の仕組みを作りたいという思いが強く、私もその考え方に深く共感していた。ゆえに、当院が中心となって地域包括ケアを推進するのではなく、診療所のかかりつけ医が主役となり、その診療活動を当院が後方支援する形が理想的であると考えている」と山田氏。

現在、野中氏の遺志を受け継ぐ浅草医師会を中心に、かかりつけ医が地域に根差した在宅医療に積極的に取り組み始めており、同病院も地区医師会と協議会を設置し後方支援に乗り出している。「当院に登録するかかりつけ医が往診している患者さんのうち、看取りに近い状態の人の情報を共有し、在宅当番に参加したり、急変などで病院での治療が必要なときはいつでも受け入れたりするバックアップ体制を整備している」と山田氏は説明する。

先日も登録医が長年診てきた高齢患者がいよいよ終末期を迎え、家族による看病が難しくなった。そこで同病院が受け入れ、登録医が同病院に通って診療する併診スタイルに切り替えた。「患者さんは夜遅くに当院で亡くなられたが、登録医がやってきて最期を看取ることができた。登録医には、かかりつけ医の責任を果せたと非常に喜んでいただき、私たちも後方支援の大きな手応えを感じた」と山田氏は好事例を紹介する。今、この地域では、診療所と高齢者医療の拠点病院が実践を通して、かかりつけ医が患者の最期を看取れる仕組みづくりの構築に挑戦している。

エントランスホールに集まった子ども神輿と地域の人々
5月の台東区はお祭りシーズン。子ども神輿がエントランスホールに参上(同病院公式インスタグラムより)
グループに分かれて行われる多職種連携研修の様子
1年目多職種連携研修の様子(同病院公式インスタグラムより)

地域活動の推進で
総合力と人間力を磨く

同病院では、ヘルスプロモーション活動にも取り組み、職員が積極的に高齢者の生活の場に足を運ぶよう働きかけてきた。「この方針に賛同してくれる職員が結構いたので、様々なテーマ(認知症予防・ケア、フレイル予防、禁煙、食生活改善など)で地域活動を行うグループが自発的に発足した。今では区の事業として、協働して取り組まれている活動もある」(山田氏)。

そして同病院が毎年秋に病院祭を開催し、地域力を育むことにこだわるのは、施設は通過点に過ぎず、地域の中で住民同士が共生するような風土がないと、高齢者問題の真の解決は望めないと考えるからだ。

これらの地域活動は、職員の資質の向上にも好影響をもたらしている。「高齢者医療や地域包括ケア型施設で求められる専門性とは総合的な知見。かつ多職種連携が基本で、どの職種も自分の専門領域の知識だけでは役に立たない。高齢者を理解し、コミュニケーション能力に優れていることも重要。地域活動でこうした力が磨かれていくように感じている」(山田氏)。

また、2040年問題を見据えたときに地域包括ケアに関わる人材は自律的に行動できることが不可欠とも。同病院で育成に努める特定ケア看護師は、この要素を持ち合わせているとし、山田氏は総合診療医とともに地域包括ケアのカギを握る人材と期待しており、特定ケア看護師のさらなる増員を計画している。

高齢者医療が決して儲かる医療ではない中、同病院が患者に本当に必要なサービスを提供し、攻めの経営ができるのも公設民営であることが大きい。「地域包括ケアシステムの理念からいえば、この病院は区民を守るために必要な拠点であり、公共性の高い施設。だからこそ、民間事業者に丸投げするのではなく、地域の実情に応じた高齢者医療サービスを、行政を含めた地域のステークホルダーで育てていくことが重要であり、公設民営はよい仕組みだと思う」と山田氏は語る。

公設民営型病院の開設の動きは、全国的に起きている。台東病院は、地域包括ケアシステムの拠点として、その役割と診療機能にさらに磨きをかけ、この分野のトップランナーとしてあり続けることを目指している。

(医療ライター 渡辺 千鶴)

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