公益社団法人 日本医業経営コンサルタント協会

2026年6月号特別対談

東京に見る都市医療の未来と経営

猪口 正孝 氏/眞鍋 一

特別対談

第30回日本医業経営コンサルタント学会 東京大会プレ企画

東京に見る都市医療の未来と経営

病院経営は新たな“連携”のステージへ

10月30日に開催する、第30回日本医業経営コンサルタント学会 東京大会のテーマは、『「いまこそ、激変の時代を乗り越える!」2040年に向けて。医療・福祉・介護のためにできること』。日本の人口の1割が暮らす首都・東京都の医療の未来を、多角的観点で発表し合う予定だ。全国的には人口減少・高齢化への対応が急務だが、東京にもそれらとは異なる経営課題が山積している。日本の首都の医療・病院経営の未来像を東京都病院協会の猪口正孝会長にうかがった。

猪口正孝氏の顔写真

眞鍋 一

当協会理事/東京地区協議会代表/東京都支部長
第30回日本医業経営コンサルタント学会 東京大会 学会長

眞鍋一氏の顔写真

猪口 正孝 氏

一般社団法人東京都病院協会 会長

profile

猪口 正孝(いのくち まさたか)氏

社会医療法人社団正志会理事長 1984年日本医科大学医学部卒業、同大外科学第二教室入局。1994年同大学大学院博士課程修了。2002年平成立石病院院長、2004年医療法人社団正志会南町田病院 理事長就任。2009年全日本病院協会常任理事、2013年東京都医師会副会長、2019年東京都病院協会会長。正志会は平成立石病院(葛飾区)を礎とし現在都内(荒川区、北区、江東区、町田市)に8病院とクリニック、訪問看護ステーション、在宅診療所など幅広く展開。高度急性期から回復期、慢性期そして地域で暮らすための機能を有し、地域包括ケアの実現に向け取り組んでいる。法人本部は南町田病院(町田市)に置く。

過当競争と人材不足にあえぐ
東京の病院経営

眞鍋まず、東京都の医療提供体制の現状をどのように捉えていらっしゃるのかおうかがいします。そして、東京都病院協会として、今最も重要視されている課題は何でしょうか。

猪口東京は、日本で最も病院の経営状態が悪い地域です。これを他の地域の病院経営者に言うと「東京にはいくらでも患者がいるだろう」と驚かれるのですが、患者数は多くても、物価や人件費が高いにもかかわらず診療報酬は全国一律なので、いくら診療しても利益が出ないのです。

さらに、都内は病床数が過剰で、病院同士が過当競争に陥っています。多くの病院で、病床の利用率は70%台、稼働率は80%前後にとどまっています。1985年に病床規制が導入されたものの、区中央部の過剰を解消しなかったために周辺の二次医療圏では病床が不足し、そこに新規病床を配っているので、過当競争の状態が改善しないのです。

そこで都病協は東京都に対し、2040年を見据えた新たな地域医療構想に基づき、必要病床数が再算定されるのを待ってから病床を配分するよう提案しています。これを受けて東京都は現在、新規の病床配分を3年連続で停止しています。

医療人材の不足も深刻で、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県の1都3県は、人口当たりの看護師数が全国ワースト5に入る低水準ですから、東京に新規病床を配分するということは、他の病院から看護師を引き抜く構図となり、人材を失った病院が閉院に追い込まれるケースもあります。そのため、東京の病院は新陳代謝が激しく、50年や60年の歴史を持つ病院でも閉院やM&Aに至る例が増えています。東京は、過当競争と経営難が密接に結び付いた、厳しい状況にあるということです。

こうした状況を全体として改善する可能性があるとしたら、地域医療構想です。診療報酬の改定はもちろん重要ですが、地域医療構想には医療提供体制そのものを変える力があるので、過当競争や人材不足を是正するチャンスになり得る政策として重要視しています。

テーブルを挟んで対談する眞鍋一氏と猪口正孝氏

眞鍋東京の医療は、患者数の多さゆえに支えられているように見えて、実際には過当競争、人材不足、物価高騰という三重苦の中にあると。そうした状況だからこそ、今後は“病院単体の経営”ではなく、“地域全体で医療をどう支えるか”という視点が不可欠ですね。

日本医業経営コンサルタント協会の東京都支部では、地域医療構想をはじめ、持続可能な医療提供体制のあり方について、多職種・多領域の知見を結集し、支部会員による実践的な研究会活動などを推進しているところです。あらためて何ができるのか、さらに知見を深めていかなければならないと認識いたしました。

地域医療構想がもたらす
機能分化と経営改善

眞鍋猪口先生は東京都を1つの医療圏にするべきだとおっしゃられていますが、そのためには電子カルテの普及・連携が重要になりますね。

猪口それはもう必須です。地域医療構想では、医療機関機能の分類がかなり強く求められており、患者は急性期が終わると別の医療機関に移ることが前提となっているため、従来のように1つの病院で入院し続けることは不可能です。ですから医療機関同士の連携は必須であり、そのツールとしてDXや電子カルテの連携は不可欠です。ただ、そのDX化には大きなコスト負担が伴います。

話す眞鍋一氏

眞鍋国は、導入費用の支援は行うと言っていますが、その後の保守・更新費用についての言及はありません。その費用はどうするのかという指摘は病院経営者の方からよく耳にしています。

猪口実際、電子カルテは関連機器も含めて数年ごとの更新が必要です。たとえば、100床規模の病院でも電子カルテの更新には1.5億~2億円、200床規模なら3.5億~4億円が必要になります。仮に8年ごとの更新としても、年換算1億円規模の負担になりますが、それだけのコストをどこから賄えというのでしょうか。

電子カルテは一度導入すると手放せないものです。情報をリアルタイムで共有できる利便性の高さは、医療の質の向上に直結するからです。加えて、電子カルテを基盤とした連携は必然の流れであり、その費用負担のあり方を国にしっかり考えてもらわないと、病院は持たないということになります。

医療機関の経営は、医療の質を維持するという前提の下で行うものです。そのために最低限必要なものは維持しなければならず、簡単に経費節減などできないのです。

眞鍋設備について、たとえば手術用ロボットなども導入していないと、若い医師が来てくれないという話も聞きます。昔は病院の理念に賛同して、この病院で働きたいという考えが多くありましたが、現代では技術習得を第一義的に考える医師も多くなっているようです。

猪口それもすべて必然の流れだと思います。戦前から終戦直後にかけては、病院でもやれることは限られていて、診療所との差も大きくありませんでした。CTやMRIといった高度医療機器もなく、抗生物質さえ十分に普及していない時代でしたから、外科治療も外傷の止血・縫合程度、入院治療といっても感染症患者の隔離や輸液・療養にとどまっていました。

その後、医学・医療の進歩により、入院医療の質は大きく向上します。レントゲン検査や内視鏡、さらにCT・MRIといった高度医療機器が登場し、手術手技も高度化しました。これにより、診療所でもできる医療と、病院でなければ提供できない医療の差は次第に広がっていきました。

そうした中で、病院の機能分化も進んでいきました。高度な急性期医療を担う病院がある一方で、療養型やリハビリテーションに特化する病院も現れ、役割分担が進みました。今後はさらに細分化が進み、高度急性期と急性期の役割分担がより明確になると考えられています。それが恐らく今度の地域医療構想における「医療機関機能報告制度」の狙いで、急性期拠点病院と高齢者救急、そして地域急性期の線引きがなされていくのではないかと見ています。特に高度急性期医療は、より多くの医療資源を投入する領域として、今後も一層高度化していくことが見込まれます。

さらに、AIによる診断がすでに現実になりつつありますし、20年もすれば、AIと手術ロボットの組み合わせが、人間以上に高度な手術を担う時代が来るかもしれません。医療機関には、そういう時代の流れを認識し、将来の変化を見据えながら経営していくことが求められています。

眞鍋医療技術の進歩によって、病院に求められる役割は大きく変化し続けています。これからの病院経営には、単に現在の制度に対応するだけでなく、AIやロボティクスを含めた医療の将来像を見据え、自院の機能や地域での立ち位置を明確にしていく視点が不可欠です。今秋に開催する第30回日本医業経営コンサルタント学会 東京大会においても、地域医療構想や機能分化の議論に加え、“これからの病院価値”をどう創造していくのかについても、多くの皆さまと共に考える機会にしたいと考えています。

高コスト化する医療体制
財源設計に疑問

眞鍋医療機関の機能分類と連携が進んでいくと、患者に適切な医療機関を紹介することの重要性が、ますます高まってくるというイメージを持っています。

猪口各医療機関が、互いの専門性や機能を共有し、その医療機関情報を基に相互に患者を紹介し合うシステムは、国民にとって安心感のあるものです。しかし現状では、そうした機能連携のシステム構築に対する診療報酬上の評価はなく、各施設の負担で行われているのが実情です。加えてDX化やAI導入が進み、医療がどんどん高コスト化に向かう中で、保険料と税金だけでやっていく体制が持続可能なものなのか。財源論を、国はきちんと考えているのでしょうか。その流れの中で、自費診療を志向する医療機関が出てくるのも必然です。ただし、自費診療だけの病院というのは現実的でなく患者も来てくれないでしょう。たとえば保険の多層化は一案ですが、日本人の気質を考えると、国民の理解を得るのは困難だと思われます。

眞鍋混合診療を認めてほしいという声もよく耳にします。患者のため、あるいは病院存続のためにはどうしても必要なのだということをよく言われます。

猪口私もそう思います。1回数千万円もする新薬が実際に登場し保険診療に加えられている中で、日本の医療の質を保とうとするならば、そういうことも真剣に議論しておかないといけません。

並んで立つ猪口正孝氏(左)と眞鍋一氏(右)

眞鍋そこで、病院経営の一端を担う立場として事務職が、意見が言えるような状況をつくることが、病院経営者に対するアシスタントになるのではないかと考えていますが、いかがでしょうか。

猪口病院経営に事務の能力が欲しいというのは本当にそのとおりです。医療系人材には、お金がどう回っているかわかっている人がほとんどいません。ですから、いろいろな分野から入られている医業経営コンサルタントの方々から教えてもらうことはとても大事だと思っています。

眞鍋この点について、東京都病院協会として課題と考えていることは何かございますか。

猪口人材不足の問題でいうと、日本人だけでは確実に不足するため、外国人材の活用はすでに進んでおり、実際に都内の病院も一定数を受け入れています。日本医業経営コンサルタント協会の方で、より優秀な外国人材を確保するためのスキームをお持ちであれば、都病協でも会員に周知したいと思います。

いずれにせよ、地域医療構想は東京の病院経営を変える重要なターニングポイントになると考えています。連携を強化し、各病院が機能分化と効率化を進めることで、経営状態を改善できます。そのためにはDXが不可欠です。今後の焦点は、構想区域をどのように統合・広域化するか、二次医療圏との関係をどう整理するか、さらには基準病床数の算定方法をどう見直すかといった点にあります。これから1年かけて東京都の協議を重ね、2027年、2028年に向けよりよい医療体制を構築していくことが、都病協にとって最大のやるべきことです。

診療報酬の改定は、都病協単独ではどうしようもないことです。地域でできることとしては、地域医療構想にしっかり取り組むことです。その中で、日本医業経営コンサルタント協会の皆さんと協力して発展させていけるところがあれば、ぜひお願いしたいと思います。

眞鍋われわれもぜひご協力させていただきたいので、よろしくお願いいたします。地域医療構想を実効性あるものにしていくためには、病院経営の視点と現場運営の視点をつなぐ存在がますます重要になると感じています。特にDXの推進や人材確保、さらには外国人材の定着支援は、個々の病院だけで完結できる課題ではなく、地域全体で知見を共有しながら進める必要があります。医療機関・行政・医業経営コンサルタントが連携し、2040年を見据えた持続可能な地域医療体制のあり方について、具体的で実践的な連携を深めていきたいと考えています。

東京都の
医療提供体制の展望

眞鍋最後に、東京都病院協会としてこれから始める、もしくは予定されている新たな取り組みがあれば教えてください。

猪口東京都病院協会は、30年間活動を続ける中で、東京都医師会と密接な関係を築いてきました。とりわけコロナ禍を契機に東京都と意見交換の機会を持てるようになったことは、重要な転機でした。当初、厚生労働省の地域医療構想の検討会に大都市部病院からの委員はいなかったのですが、私が全日本病院協会の副会長として委員を務めたことで、大都市圏の病院を代弁する立場として検討会に参加する機会を得ました。その過程で抱いた違和感を厚生労働省に伝えたところ、興味を持ってくれて、話を聞いてもらえるようになったのです。

東京都病院協会単独で行動していたところから、医師会、東京都、厚生労働省といった関係機関と共に、将来の東京の医療を率直に相談し合える関係を築けたことは、都病協にとって一番明るい話題です。これにより、現場に即した施策が形成できるようになるのではないかと考えています。また、小池知事が東京都独自の病院の緊急補助をいろいろ講じてくれたことも、都病協が30年間かけて作り上げてきた流れの中にあるものだと思っています。

話す猪口正孝氏

眞鍋他地域へ行くと、東京都ではなぜ病院が潰れないか、どんな魔法があるのだと聞かれることがよくあります。

猪口オーナーが代わっているので、実質的には潰れているのですよ。理事長をはじめ経営陣がすべて交代している病院、資本も変わっている施設・法人はあちこちにあります。

眞鍋今後、東京・大阪は開業するのも厳しくなるのでしょうか。

猪口東京都も地域性にばらつきがあるので、一括りにして語ることはできません。人口増が続いている区市部では、特に内科医と整形外科医は開業すれば簡単に成功できます。ただ、都病協の本音としては、新規開業を止めたい。そうしないと病院に医師が来てくれません。大学病院と診療所だけで患者が望む医療が成り立つとは思いません。もとより、そのために地域医療構想、地域包括ケアシステムの構築が推進されているわけですから。

医療人材の確保に関して、医業経営コンサルタント協会にお願いしたいと申しますか、一緒にキャンペーンを張ってほしいことがあります。それは、有料職業紹介事業の問題です。全国的には、有料職業紹介所とハローワークの利用比率はおおむね拮抗していますが、東京都では有料職業紹介所による紹介がハローワークの約7倍に達しています。有料職業紹介所は市場原理ですから、同じコストを投じるならば、市場としてより大きく、より盛んに動いている東京に投資を集中させているのです。

民間の有料職業紹介所は、集客のための広告宣伝費やデジタルマーケティングに多額の投資を行うだけでなく、求職者1人ひとりに寄り添い、採用まで継続的に支援します。それだけお金がかかりますから、紹介先の病院に対して高い紹介料も求めてきます。

それを解決するには、ハローワークに民間に対抗できるだけの予算を付けるか、広告の規制をするかのどちらかです。現状は、診療報酬という公費が人材市場という市場経済に流れ込んでいる構造になっており、そうした使い方が適切かどうかには疑問が残ります。医療材料や医薬品と異なり、人材紹介市場は医療制度上の認定などもないわけですから、規制の見直しも必要ではないかと思っています。

眞鍋東京の医療を持続可能なものにしていくためには、病床機能や地域連携だけでなく、“人材が適正に地域へ循環する仕組み”をどう構築するかが極めて重要だと感じています。先生がおっしゃるように、人材紹介市場の問題は、個々の病院経営の課題にとどまらず、診療報酬財源のあり方や地域医療提供体制そのものに関わる重要なテーマです。第30回日本医業経営コンサルタント学会 東京大会は、そうした観点の課題も取り入れ、医療現場にとって真に持続可能な仕組みづくりの解の創出ができる場にできればと考えています。

本日は、貴重なお話をいただき誠にありがとうございました。

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